久遠の花〜 the story of blood~


 驚く私に、少年は挨拶ですからと言い、嬉しそうな笑顔を見せた。


「私にはまだ、力なんてもの……」

「力は、もう少しで現れます。それまで、ここから出ることはしないで下さい」

「!? そ、そんな勝手なことっ」

「ここを出るのは危険です。どうか、ご理解下さい」


 深々と、頭を下げる少年。

 でもいきなりそんなことを言われて従えるほど、聞きわけがいい子じゃない。


「……納得する理由がないと、従えません」


 思い切って聞けば、実際に見ていただきましょうと、窓へ連れて行かれた。


「では、少し散歩でも致しましょう」


 窓を開けたと思えば、慣れた手付きで私を抱える。戸惑う私に、少年はニコッとやわらかな笑みを見せ、窓の縁に足をかける。外を見れば、そこは目も眩むような高さ。途端、恐怖で少年にしがみ付いていた。


「そのまま、しっかりと掴んで下さいね」


 自然と、握る手に力が入っていく。

 そして少年が飛び出したと同時。私は、硬く目を閉じた。


 *****


 家に帰るなり、桐谷は目を疑った。

 開け放たれた窓に、誰もいないベッド。急いで気配を探れば、そこには美咲と、叶夜の気配を感じた。


「……彼も、抗えなかったということですか」


 考えたくはないですが、キョーヤは手に落ちたのでしょうね。

 嫌な考えが浮かび、桐谷は重いため息をついた。

 それは、現王華の長である力を、よく知っているからだった。

 その力は支配の眼。相手を見つめるだけで、一時的に自由を奪える力。だが彼は自分の血を使い、長く相手の自由を奪えるだけではなく、意思をも奪い取ることが出来ると聞いていた。


「キョーヤがこれでは、ミヤビの方も……」


 気配を探るにつれ、叶夜が発症している恐れがあると感じた。今まで何もなかった彼が発症したとあれば、既に発症している彼はもっと危険な状態かもしれないと、不安で心が押し潰されそうだった。
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