久遠の花〜 the story of blood~





「――ヒカルさん!」





 どこからか、大声で名前を呼ばれる。窓から身を乗り出せば、一人の女性が、空から舞い降りて来た。急いで部屋に入るなり、彼女は桐谷に詰め寄ってきた。


「ノヴァが戻ってしまうなんて……。一体、何があったんですか!? やっと心が育ったのに、これじゃあまた!」

「落ち着いて下さい! 私も今、把握するので精一杯なのです。――エメさん、貴方は、何を知っているのですか?」

「……ノヴァが。ノヴァが、美咲ちゃんを連れていたんです。どーいうことか問いただそうと近付いたら、あの子、昔のように冷徹な表情になってて。私を振り払って、向こうの世界に行ってしまったんです」

「……やはり、レフィナドが動きましたか」


 今にも泣き出しそうなエメを宥めながら、桐谷は油断していた自分を責めた。


「あちらに捕らわれているとなれば、迂闊に手出しするわけにはいきませんね」


 ぎっ、と歯を食いしばる。

 その様子に、エメも申し訳なさそうに言葉を発する。


「迂闊だったのは、私も同じです。もう少し早く気付いていれば……」

「いえ。貴方に非はありませんよ。貴方はもう、充分過ぎる程やっています――?」


 ふと、視線を下に落として見れば、エメの腕に、桐谷は変化を感じた。よく見れば、その腕は肘から下が黒く、変色し始めていた。


「エメさん……その腕は」

「っ! だ、大丈夫です。まだ、気にするほどのことじゃないですから。――それよりも」


 伝えることがあると、エメは真剣な表情で桐谷を見た。





「もうすぐ――レイナ様が現れます」





 途端、桐谷は間の抜けた声を出した。
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