久遠の花〜 the story of blood~

「久々だし、余裕もって行こうかなって」

「そうかそうか。ゆっくり、無理せず行って来なさい」

「うん!――それじゃあ、行って来まーす」


 笑顔で挨拶を返し、私は傘を持って家を出た。

 学校へは歩いて三十分ほど。家は小高い丘の上にあるから行きは楽だけど、帰りは上り坂だから、ちょっと時間がかかるんだよね。


「…………」


 坂道を下る途中、休憩スペースがある場所に着くなり、私は一旦足を止めた。
 別に、誰かいるわけじゃない。待ち合わせをしているわけでもなく、ある一点を――木で作られたベンチを見て、二ヶ月前の出来事を思い出していた。


 ――入学式が終わった後。

 私は病院に行き、念のため検査を受けていた。

 結果は異状なし。これならしばらくは大丈夫だろうとお墨付きをもらい、私は気分よく病院を後にした。

 ――大丈夫、かも。

 調子がいい今なら、少しは傘を差さなくてもいいかと思い、しばらく普通に歩いてみた。

 日が落ち始めているから、日差しもやわらかい。

 顔も熱くならないし、これなら今日は家まで行けそうだと、一層気分がよくなっていた。

 坂道を上ると、休憩スペースにさしかかる。そこで私は、いつものように奥へと進んで行った。

 ここは私のお気に入り。ここから眺める夕日は、この辺りで一番綺麗に見える場所なんだよね。


「――――?」


 いつも座るベンチに向かうと――人が、横になっているのが見えた。

 残念。あそこ、一番眺めがいいのに。

 ここにはあまり人が来ないから、こうして誰かに先を越されたなんて初めてだった。

 仕方ない、か。

 今日は別のとこにでも――?
< 3 / 526 >

この作品をシェア

pagetop