久遠の花〜 the story of blood~
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久々に、家から出られることになった。とは言っても、おじいちゃんの友だちの家で療養するから、基本的にはあまり変わらないんだけど。場所はとても山奥。近くの町でも車で三十分って遠いけど、その分、空気や景観はとても綺麗。家もすごく大きくて、時代劇とかに出てくる武家屋敷って感じ。周りは竹林で覆われてるせいか、聞こえるのは、鳥や笹が揺れる音だけ。あまりに余計な音が存在しないから、ここだけ別世界な気がしてくる。
「――――夜かぁ」
窓を見れば、ちょうど月が浮かんでいる。
どうやら、今日もほとんど眠ってたみたい。
体を起こすと、まずは背伸び。毎日きちんとやっていないと、思うように動いてくれなくなるからね。
せっかく起きたんだし、中庭に出てみようかな。たまには部屋から出ようと、上着を羽織り、ゆっくり歩いた。まだ長く歩けないけど、前よりは滑らかに足が動いてくれる。確実に成果が現れていることに、自然と頬が緩んでいた。
中庭に来ると、私は縁側に腰を下ろし、柱に寄りかかりながら月を眺めた。
この家の周りには、人口の光は置いていない。だから、ここでは月が持つ本来の明るさを知れるし、こんなに綺麗なんだって改めて、感じることができる。
〝全てが終わったら――ここに来なさい〟
ふと、頭に浮かんだ声。その声がおばちゃんだってわかるのに、いつどこで言われたのか――…。
「? 花の――匂い?」
どこからか、少し甘い香りがする。庭にある植物かと思ったけど、こんなの、今までここに来て匂ったことがないし。
すると――ひらり、花びらが舞い降りる。手に取り匂ってみれば、それから微かに、甘い香りがした。
〝大きくなったら、必ず来なさい〟
再び聞こえた声と同時、今度は、一面の花畑が頭を過った。知らないのに……行かなくちゃいけないと、私は強く駆りたてられていた。
道なんてわからない。でも、足は勝手に歩き出している。