久遠の花〜 the story of blood~
「――今度は必ず」
自分に言い聞かせるよう、叶夜は呟く。
そして美咲の手を取り、まるでなにかを誓うように――そっと、手の甲に唇を落とした。
「――いけませんね」
声を聞き、叶夜は唇を離す。
視線の先には、薬を手に持った青年が、腕組をしながら叶夜を見ていた。それに慌てる様子もなく、むしろ叶夜は、青年がいることに気付いているようだった。
「それを行う意味……知らない訳ではないでしょう?」
「えぇ。もちろん」
「正式ではないにしろ、そのような行動は慎んだ方がいいですよ」
どこか遠い目をしながら、青年は諭(さと)すように言う。
「特に、貴方の立場なら尚更。何処で誰に見られているとも分らないのですから」
「……そうでしたね」
理解したのか、叶夜はすぐに、美咲から離れた。
「私は構いませんが……面倒を増やすことはやめて下さいよ?」
少し叱るように言うと、青年は叶夜に薬を手渡した。
礼を言う叶夜に、青年は最後に一言、注意して下さいとだけ言った。
そして外が安全なことを確認してから、窓から帰る二人の姿を見送った。
「貴方もいつか――レイナに」
ぽつり呟いた言葉。
それは、無意識に出た言葉なのか。
どこか儚げな音声は、虚しく夜に溶けていった。