久遠の花〜 the story of blood~

「それならいいけど……なにかあったら、すぐに電話してよ?」

「約束する。ほら、早く行ってあげないと」

「あ、うん。――じゃ、また学校でね!」


 自分のお代をテーブルに置くと、杏奈は急いでお店から出て行った。

 私もそれからすぐにお店を出て、夕暮れの道をゆっくりと歩いていた。

 いつもの丘に差し掛かると、ちょうど、夕日が沈んでいくのが見える。





 ――リン。





 どこからか、鈴の音が聞こえる。

 周りを見渡せば、塀の上から、一匹の黒猫がこっちを見ていた。


「――ニャ~」


 一声鳴くと、黒猫はぺこっと頭を下げ、足もとに擦り寄って来た。

 ふふっ、人に馴れてるんだ。

 しゃがみ込み頭を撫でてやれば、猫は嬉しそうに喉を鳴らす。


「気持ちいい?――あ。君の瞳、二色なんだね」


 猫の瞳は左右色が違い、とても綺麗な青と緑色をしていた。


「黒毛に青い瞳だと……ロシアンブルー、だっけ?」


 片目は緑だけど、見た目はそんな感じがした。

 いいとこの猫なのかなぁ~と思いながら撫でていれば、猫は嬉しそうにじゃれていたというのに――それまでの愛想は一変。なにか気に入らないことがあったのか、急に、猫は袖に噛み付いてきた。


「っ?! い、いい子だから……離して、くれる?」


 宥(なだ)めるように言えば、言葉が通じたのか、猫はあっさり噛み付くのをやめてくれた。


「――ニャ~ゴ!」

「?――なにか、あるの?」


 塀に登るなり、すぐに歩きだしたものの、何度もこちらを振り向く猫。そのたびに鳴かれ、まるで、私を誘っているかのように思えた。
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