vivid
「悪いね。柄にもなく取り乱した」

「いや…」

 取り乱したことよりも、この女から謝罪の言葉が飛び出したことに驚きだ。

「さて、訊きたいことはそれだけかい?」

「ああ」

「そうかい、じゃあ…」

 体は外を向いたまま、上半身だけをひねって室内にいる俺の方を振り返る。

 頬に触れた一瞬の柔らかい感触に思わず肩が跳ねた。

 感触がやってくるのと同時に何か音もした。

「おやすみ。いい夢を」

 なるほど、"おやすみのキス"というヤツだろうか。ご丁寧にリップノイズまでつけて。

 俺の思考が現状に追いついた頃にはキティの姿はなかった。

 窓を閉めながら安堵の溜め息をもらす。

 動揺も赤面した顔も見られずに済んだ、サッサと帰ってくれて助かった。

 わずかに付着した真っ赤な口紅にを拭ってベッドに腰をおろすと不思議なことにドッと疲労がやってきて、たまらずそのまま背中を投げ出した。

 遠のいていく意識の中でキティの台詞の一部が再生された。

"アタシはもっと、"

「"鮮やかに"、か…」

 あれは一体、何を言いたくて発した言葉だったのだろう。

 思考はそこで途切れてしまった。

 まぶたは重力に従順、睡魔には勝てやしなかったのだ。
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