密会は婚約指輪を外したあとで

話が一区切りし、小腹が空いてきた頃。

ツナの和風パスタを作ってみたら、拓馬は完全に機嫌を直してくれた。

気に入ったらしく、たくさん食べてくれたのでホッとする。



「奈雪、一緒に映画見よう」


後片付けが終わり、何かのケースを持った拓馬は私へ提案をしてきた。


「邦画のDVD持ってきたんだ」


手渡されたディスクは、恋愛映画ではなく──今話題のホラー映画だった。

ものすごく怖い本格的ストーリーだと、テレビで紹介されていたのを見たことがある。

もちろん、私はすぐにチャンネルを変えた。


「う……、うん。いいよ。私も気になってたの、この作品」


ホラーは苦手だと言い出すことができず、すすめられるままディスクをセットする。

アイスココアを二つ用意したあと、ソファに座って一緒に鑑賞することとなった。

二人掛けのソファなのでかなり狭く。彼の腕にぶつかりそうなほどの近距離だ。

別の意味でドキドキしてしまう。

少し動いただけで、微かな彼の香水の匂いが漂ってくる気がする。



ストーリーが進むにつれて、視聴者を怖がらせる演出が増えてきた。

主人公が駆け上がる階段を、何者かがじわりじわりと追いかけてくる。

曲がり角を曲がった、そのとき──。


「……!」


私は恐怖のあまり、隣に座る彼のシャツ──腕の辺りにしがみついていた。

映画に夢中になっているのか、なぜかお咎めは無し。

そういえば、拓馬はこういう計算高い女は嫌いだったっけ……。もしかして、怒っているのかな。

でも、そうも言っていられない。

恐ろしさを後押しする、この効果音が鳴っているということは──


「きゃあっ……!」


悲鳴が部屋に響き渡り、私はそばにあった何かに顔を押しつける。

一瞬だけ、見てしまった……。見てはいけない、おぞましいものを。


< 190 / 253 >

この作品をシェア

pagetop