密会は婚約指輪を外したあとで
「そういえば、どうして3人の部屋の扉を開けるなと言ったんですか?」
「ああ……あれね」
すっかり忘れていた、といった風に一馬さんは顎に手を当てて頷いた。
「その方がミステリアスなキャラを演じられるからだよ。秘密が多い方が魅力的でしょ?」
「はあ……そうですかね」
「まあ、なゆちゃんのこと気に入ってたから、弟たちには取られたくなかったっていうのもあるかな」
本当の話なのか確証がなく、私は曖昧な笑顔を返す。
「でもハルくんの部屋には、まだ入ったことないですよ」
「それは良かった、これからも入らないことをすすめるよ。あいつは兄弟の中では一番肉食だから」
「肉食?」
「無邪気そうに振る舞うのが得意なんだよな。ドアを開けたら最後、出て来れないかも……」
一馬さんが真顔で恐ろしいことを口にするので、簡単にハルくんを家に上げてしまった日のことを思い返し冷や汗が出た。
あのときは、拓馬が来てくれたから助かっただけだったんだ。
上着のポケットからスマホを出し、操作し始めた一馬さんは誰かにメールをしているよう。
私はその間、目の前に広がる夜景を見下ろしていた。しだいにビルの屋上が近づいてくる。