密会は婚約指輪を外したあとで

さりげなく好きと言えたら、どんなに楽だろう。

こういうとき、自然に甘えることのできない自分を恨めしく思う。


好きと言えないまま30分以上が経過。

本当に拓馬は私に触れて来ないし、このままだと、つまらない女だと思われて、雨も気にせず帰ってしまいそう。


私が洗い物をしている最中。コーヒーのおかわりを淹れに、狭いキッチンですれ違うときも、拓馬はわざわざ私を避けて通っていった。

どんどん言うタイミングを失っていく。

しかもブラインドの向こうを覗けば、すでに雨が止みかけていた。

いつ彼が帰ってもおかしくはない。


「奈雪……」


背後から低く呼ばれ振り返ると、触れそうなほど近い距離に拓馬がいた。


「奈雪といる時間は一秒だって惜しいのに。一時間も待たせるなよ」


壁際へ追い詰められ、切なさと苛立ちを含んだ視線が私を捉える。

嫌われてしまったかもしれない。そう思うと目尻に涙が浮かぶ。


「ほんとに強情だな。……けど、奈雪のそういうところ、嫌いじゃない」

「私も……、拓馬の意地悪だけど本当は優しいところ、嫌いじゃないよ」


小声で応えると、彼の眼差しが和らいだ。
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