密会は婚約指輪を外したあとで

「やっぱり、さっきの取り消し。よく考えたら、言葉なんていらないよな。俺は奈雪と一緒に過ごせるだけで満足だから」


見下ろす彼の目が苦しげで。
今すぐにでも願いを叶えてあげたくなった。


「──それにもう、奈雪に少しも触れられないなんて……耐えられない」


そっと抱きしめられ、気持ちが溢れ出す。

長いこと我慢をさせていたのかと思うと、申し訳なさでいっぱいになって、彼への想いが言葉として零れていく。


「……好き。拓馬のこと、ずっと一緒にいたいくらい好き」


だからまだ帰らないで。


心の声が聞こえたのか、表情に出ていたのか。
困ったように拓馬が私の頬に触れた。


「そんな風に涙目で言われたら、帰れなくなるだろ」


抱き上げられ、静かに降ろされたのはベッドの上だった。

シーツの上に私の髪が広がる。


「このあと帰るつもりだったけど。泊まっていこうかな」


その言葉に私はハッと顔を上げ、慌てて嬉しい気持ちを押し隠す。

朝まで拓馬と一緒にいられるなんて、嬉しい。

私ももっと素直にならないと……。


「一時間、お預けくらってたんだから、覚悟しろよ?」


意地悪く笑った拓馬は、私の手首に口づける。


強気な口調とは裏腹に、強引とはかけ離れた優しいキスが、唇や首筋へと落ちていく。


「──ずっと、大切にする」


奥へ熱を感じるたびに、彼の気持ちがじかに伝わってきて。私はそっと目を閉じる。




身体中愛されて、初めて深い繋がりを知ったあと。

隣に寄り添い、髪を撫でてくれる彼へ自然と囁いていた。



「大好きだよ、拓馬。……愛してる」







after story ~fin~
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