密会は婚約指輪を外したあとで


「あの……ハルくん。拓馬って、好きな人とかいるのかな」


挽肉を捏ねていた私は、意外と慣れた手つきで野菜を洗うハルくんにそれとなく訊いてみる。


「さあ、どうだろ。いるんじゃない?」


期待していた答えとは違うものが返ってきた。


「なゆさん、もしかして。一馬兄さんより拓兄のことが気になってきたんだ?」


ハルくんは悪戯っぽく私の顔を覗き込む。


「違うってば。一馬さんの弟だからちょっと気になるだけ」


私は顔に出ないように素っ気なく言った。

それを信じたのか、そうでないのか、ハルくんは薄く笑っている。


「そういえば、こんな噂なら知ってるけど」

「……噂?」


私は手を止めて彼の横顔を凝視した。
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