One Night Lovers
 ふと私は大事なことを確かめていないことに気がついた。

 最初に彼を見たときに、ちゃんとした社会人ですらなさそうだと勝手に思い込んでしまい、彼女の存在など考えもしなかったのだ。

 だけどこんなに綺麗な顔の男なら恋人に不自由しないだろう。そう思うと胸が痛む。

 でもこの状況で今更訊けるはずもない。

 もし恋人がいるならケイゴを裏切り者にしてしまう。

 いや、そうじゃない。彼に愛する女性がいること自体が嫌なのだ。だけどそんなことを私が言うのはおかしい。


 だったら、私が彼に伝えるべき言葉はなんだろう?


 きっとこんなときは何も言わなくてもいいのだと思う。

 だけど、胸の中に湧き上がってくるこの名前のつけようがない不思議な感情を、どうにかして彼に伝えたかった。

 少し首を起こして自分からケイゴに軽く口づける。

 彼の瞳の奥をもう一度確かめるように覗き込みながら、私は懇願した。


「今だけでいいから、ケイゴの恋人にして」

「よろこんで」


 耳元でケイゴの掠れた声がしたかと思うと、首筋に柔らかい唇が軽く触れ、私は思わず短く声を上げた。

 それを契機に彼の唇は私の肩や鎖骨を這い、身を捩った隙にうなじを舐め上げられ、まだ身体を触れられてもいないのに甘く切ない刺激が全身を貫く。
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