記憶混濁*甘い痛み*2
------数日後
和音は病院の教会で、ぼんやりと聖母マリア像を見つめていた。
「…アヴェ·マリア、か…」
洗濯物をたたみながら、洗い物をしながら、よく友梨が小さな声で謳っていた。
和音の聞き覚えがなかった言語はラテン語だったらしく、聴かせてほしいとねだると、恥ずかしいから嫌……と、謳うのをやめてしまう可愛い妻。
その姿は今でも和音の瞼の裏に焼き付いており、目を閉じれば彼女の笑顔も涙も、切なく自分を求める表情すら思い描ける。
友梨が好んで謳っていたのはシューベルトではなくアルカデルトのアヴェ·マリアだったらしく、彼女と離れてから……探すのに少しだけ苦労してしまった。
友梨が謳っていた、アヴェ·マリアが聴きたかった。