記憶混濁*甘い痛み*2

「……」


「……」


「………」


「………」


「…………芳情、オマエ、つまんねぇオトコだって言われねぇ?」


5メートル四方の小さな喫煙室の中で、灰皿をのせる為だけにある丸テーブルを挟み、パイプ椅子に座り向き合う空也と芳情院。


無駄に豪華な装飾が目立つこの建物の中で、喫煙室が向かいの守衛室よりも質素な造りなのはお国柄だろうか。


「何を考えているのか解らない……なら、良く言われましたがね。どうでしょう、つまらない、オトコなのではないですか?友梨とお茶の事しか興味がない。昔から、ずっと」


空也の台詞を受けて、芳情院。


組んだ膝の上にのせた左手の結婚指輪から、面倒くさそうに視線を上げて、空也にうすく笑いかける。


和音のような華やかさこそないが、切れ長の割に優しい瞳と美しく伸びた鼻梁、意志の強そうな薄めの唇に、瞳と同じ深い黒色の艶のある髪、芳情院の知的な雰囲気に、憧れる女性は少なくはない。


……の、だが。  


「本人に興味がなきゃ、しょーがねぇよな」


はは、と、空也。




……友梨が。

条野に、惚れなければ。

いや、オレが、友梨を、深山咲から、出さなければ。

2人は、何の問題もなく結婚して、今頃、孫の顔でも見ていたのだろうか……  



「……代表、灰が」


「お?ああ、すまねぇな」
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