記憶混濁*甘い痛み*2

サラサラと薄い血液は指と手の甲から滴り落ち、床に幾つもの朱色の華を咲かせていた。




「友梨!友梨!!ヤメロ!聞こえねぇのか?オレの言葉がよ!」


「……」


反応のない友梨の左手を押さえ、シーツで傷口をくるんでから緊急用のベルを鳴らす。


その間も友梨の視線は虚ろで、何の言葉も発しなかった。


けれど、しきりに動く左腕。



「友梨、友梨、よお?オマエは、誰だ?」


空也は、乱暴に友梨の髪を掴んで、無理矢理視線を合わせる。




「……ッ!ぃ、たい」




友梨の唇から漏れる声。


けれど空也はかまわずに。




「いてぇのは!オマエの左手だろーが!心だろーがよ!なぁ?友梨、友梨よぉ?見たくないなら見るな。オマエが消したい過去なら消しちまえ!けど間違っても!!!」


「……」




「オマエは、消えるな」




そう言うと空也は、友梨の髪から手を離すかわりに自分もベッドに上がると、おもいきり強く、友梨を両腕で抱きしめた。


「……!いた……」


小さく、友梨の悲鳴。


だが、空也は離さずに。


「いてぇなら結構じゃねぇか。オマエの体だからいてぇんだよ。なぁ、友梨?解るだろーが、オマエは、此処にいる」
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