天使のような笑顔で
『ちがっ……』


否定しかけた安以の言葉を、俺はすぐに遮った。


「転校して来たばかりなのに、もう転校するなんてあり得ないよね。なのに、まんまと2人の作戦に引っ掛かっちゃってさ。動揺して、見事に試合にならなかったよ」


『えっ……?』


「だって、そうだよね?自分の彼女がドイツに行くなんて、試合前に他人から聞かされたら動揺しない?」


自然と、責めるような口調になっていた。


もちろん、2人がそんな作戦を立てたなんて思ってないし。

試合前に先生を問い詰めたのは、俺の方だ。


だけど、これぐらい嫌味を言ったっていいよね?


『あのねっ、真吾。会って…話がしたいんです』


「……悪いけど、しばらく練習で忙しいから。ホントは、誰かのせいで試合に負けたから引退なんだけど、後輩の指導に行かなくちゃいけないから」


これは、本当だった。

試合に負けたので、3年生は実質今日で引退になる。


だけど、顧問の意向で。

夏休みの間だけ、後輩の指導に借り出される事になったんだ。


でも、それだって24時間やるわけじゃない。

時間なんて、作ろうと思えば幾らだって本当は作れるんだよ。


『そう…ですか』


あからさまに、落胆の色を見せる安以。

電話越しだって、その様子は想像がつく。
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