天使のような笑顔で
「今日からこのクラスで一緒に勉強することになった、桜庭 安以(さくらば あい)さんです。みんな仲良くしてあげてね」


担任の立花先生の隣に立つ転校生に、皆の目はくぎ付けになっていた。


「桜庭 安以です。よろしくお願いします」


そう言って、緊張した面持ちで頭を軽く下げる。

長いストレートの黒髪が、一瞬空を舞った。


「桜庭さんは、お父さんのお仕事の都合で転校が多いそうなの。中3のこの時期で不安が多いと思うから、みんないろいろ助けてあげてね」


時期外れの転校生が来るという噂は、朝一番に誰かが教室に運んで来ていた。


中3の受験を控えた7月。


暑苦しい教室に爽やかな風を連れて、彼女は現れた。


いや、実際には暑苦しいんだけど。

彼女の周りには、何故か爽やかな風が流れているような気がしたんだ。
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