天使のような笑顔で

cynical

「あっ、真吾君っ」


帰りのHRが終わり。

俺が席を立つと、安以が慌てて声を掛けてきた。


昼休み以来、俺らは話をしていなかった。


俺としても、彼女を避けていたし。

教科書の全て揃った彼女と、机をくっつける必要も無くなっていたから。


……正直いうと、気まずかったんだ。


安以は、俺が彼女の事を好きだって知らない。

島崎先生に、好きな人がいる事もきっと知らないし。


ましてや…あんな事をしていたのを聞いていただなんて、知るわけがない。


だから。

俺が何でこんなに苛立ってるかなんて、彼女には分からないだろう。


でも俺は、全てを分かった上で彼女に普通に接する事ができる程大人じゃないから。


「……何?」


「あのっ、今日練習終わったらアイを見せてもらいに行ってもいいですか?」


「今日は、斉藤さんを送って帰るから。……無理だよ」


徒歩通学の彼女を歩いて帰らせるわけにもいかなくて。

俺の練習が終わるまで、体育館で待っててもらう事にしたんだ。


俺はチャリ通だから、後ろに乗せて送っていけるし。


「そう…ですか」


そう言った彼女は、少し淋しそうで。


そういえば、昨日もアイに会いたがってたよなぁ。


そう思いつつ、何だか素直になれない自分がいて。


「当分、彼女と帰るから」


そう言って…俺は、教室を足早に出てしまった。
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