飼い犬に手を噛まれまして
 
 ワンコは、ますますムッとしながら唇を尖らせた。


「よくないですよっ! 毎晩ちゃんと帰ってくる茅野さんがいないから、心配して眠れなかったじゃないですかっ!

 なんで朝帰りなんてするんですかっ!」


「あ、朝帰りとか、変なこと言わないでよね!」



 声が裏返った。


 動揺がバレバレだ。



 ワンコは、ムウっと唸って立ち上がると、素足で私に接近してくる。


「何よっ!」



 じりじりと後退りしたけど、狭い部屋では直ぐに追いつめられてしまう。


 ワンコに顎を掴まれて、グイッと上を向かされた。


「やめて……なに?」


 ワンコの顔が私の首筋に……吐息があたる。


「お願い、やめてっ!」



 押しのけて抵抗しなくちゃいけないのに、強気な言葉ほど体はうまくは動いてくれない。


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