飼い犬に手を噛まれまして


「赤い痕がある……二つも……何してたんですか?」


「痕? うそ、やだ」


 ワンコはすっと手の力を緩めると、まるで軽蔑したかのように私を見下ろした。


 

 そんな目で、見ないで欲しい……



 昨夜の先輩としたことを全部見抜かれてしまったかのようで、ワンコを直視できない。



「紅巴さん?」


「……いいでしょ……? 坂元くんは、ただのペットじゃない! 私のやることに口出す権利なんてないっ!」


 違う。こんなこと言いたいわけじゃないのに……



「朝帰りしたっていいじゃん! 首に赤い痕つけて帰ってきたって、何の問題もないでしょ?

 余計なお世話だよ! 文句あるなら出ていって!」



 しまった…………



 ワンコは、しゅんとしたように悲しい目をした。


「そうですよね……すみません。ただ、帰ってこないから心配だっただけなんです……

 紅巴さんを怒らせるつもりじゃなかった」


「あ……」


 ワンコは深々と頭を下げると、普段持ち歩いてるくたびれたショルダーバッグだけを掴んで部屋を飛び出した。



 ヤバい。何ムキになってるんだろ……



 私は壁に背をあずけたまま、動けないでいた。


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