飼い犬に手を噛まれまして


「茅野ちゃん、おつかれ」

「はい。萌子先輩お疲れ様でございました」

「また明日ね。ばいばい」


 萌子先輩と別れて地下鉄に揺られる。外観がとても気に入ってるマンションを一度見上げてから中に入る。


 郵便受けもお洒落で、縦型のスマートな形をしている。ロックを解除して、ダイレクトメールを一通取り出した。エレベーターで二階にあがって、西から二番目の部屋が私の部屋だ。

 オレンジ色の通路、西側一番端はワンコが彼女さんと同棲していた部屋だ。いつもは人の気配すら感じない、その部屋の前に一人の女性が立っている。

 パンツスーツで身なりはよく、長く艶のある髪はそのまま背中へなびかせ、可愛らしい小さな顔は困ったような表情をしていた。


 新しい住人さんかな?


 だけど、彼女の細い指がその部屋のチャイムに伸びていき……私は思わず息を飲んだ。
< 124 / 488 >

この作品をシェア

pagetop