飼い犬に手を噛まれまして

ワンコ探しています



──────「き、緊急事態だし……」


 私は、ふぅっと息を吐き出すとワンコの荷物に手をかけた。

 どんなに探しても、深陽さんを見つけられなかった。だったら、ワンコを探すしかない。


 深陽さんは、明日シンガポールにいっちゃう。だから、今夜ワンコの居場所を突き止めなきゃいけない。


 通っている大学、実家……ううん、できればバイトしている居酒屋の場所が知りたい。

 ワンコは今夜もバイトに行っている気がするから。


 荷物のほとんどが着替え。それに日用品がちょこっと。よくこれで生活してたよね?

 段ボールを開くと、大学で使っていると思われる教科書やノートや資料が出てきた。

 一冊の教科書を手に持って、私は動きを止めた。




 誰もが知ってる超有名私立大学の名前が印字されている。お金持ちしか通うことのできない学校で、幼稚園から大学まである。セレブの登龍門みたいな学校だ。




「ワンコ……」



 深陽さんは、何も嘘をついていない。嘘をついてるのは、うちのワンコの方だ。






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