飼い犬に手を噛まれまして

 荷物からの追跡は難しいかもしれない。量が少なすぎる。

 わかったのは大学だけか……この時間じゃ絶対に学校にはいないよね。

 
 私は袋の中のネズミのように、部屋をぐるぐると歩き回った。

 歩き回ったところで、何か彼の足取りをつかめるわけじゃないんだけど、じっとしていられない。



 一週間も一緒にいて、彼の行動パターンが全く読めないなんて……そればかりか、嘘もつかれてた。飼い主さん失格だよね。




 フローリングにがっくりと膝をつく。



「どうしよう…………」




 深陽さん、ワンコに会っていたら別れる決心が揺らいだかもしれない。

 本気で嫌いになって別れるなら、あんなふうに泣いたりなんてしないと思う。




「あ、あれ?」



 そういえば、この前にワンコにプレゼントしてあげたボールがなくなってる。

 おかしいな?


 フローリングに転がっていたはずなんだけど……ひょっとして、ワンコが持っていったのかも……



 私は急いで立ち上がると、財布と携帯だけつかんで部屋を出た。




 

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