飼い犬に手を噛まれまして


「うそ……でしょ? だって、恋愛とか当分したくないって言ってた……」

「はい。でも、嘘じゃないです。恋愛なんて、したくありません。なのに紅巴さんは特別な人だ」


 ワンコの顔が揺れて、だんだんとこっちに迫ってくるような気がするんですけど。

「っだめ、だよ」


 私は目をぎゅっと瞑って顔を背けた。


「俺も今混乱してるんです……ちょっと大人しくしててくれませんか?」


「無理! ムリムリムリ!」

 キス……されそうだから。

 キスされたら、ワンコをどう見ちゃうのか怖いから。

 泣くくらい先輩のことが好きなのに、簡単にワンコを受け入れちゃ駄目だ。


「キスくらい、いいでしょ?」

「よくないよっ! ダメダメっ! 私、彼氏がいるんだから」


 ジタバタともがくけど、ワンコはビクともしない。


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