飼い犬に手を噛まれまして



「ショックだな……そんなに嫌がられるなんて…………あっちも、山口エリナとキスしてるかも」

「ワ……ワンコ、それは言わないでひどい……」

「すみません」

 握りしめられた両手がジンジンと熱くなる。額にうっすらと冷や汗が出てきた。先輩が山口エリナと?

 ないない、それは絶対にない! だから、私も……しっかりしなきゃ。

「っあ!」


 ワンコの体重がかかる。細身だけど、しっかりとした男の体が、がっちりと私を押さえ込む。

「誘ってるんですか? その声」

「違うっ! ダメー! 待てっ!」

「そんなのできませんよ。犬じゃあるまいし。あ、でも紅巴さんのせいで発情してきた」

 そんな危険なワンコ飼ってたなんて……全然気がつかなかった。

 従順な可愛いワンコだと思っていたのにっ!
 もし、次に犬を拾う機会があったら、絶対に用心しよう。いや、ないな。


「紅巴さん、かわいい……」

 ワンコの熱い唇が触れた瞬間、私は全身の力を奪われてしまった。

 抵抗することを止めた私に、ワンコは何度も何度もキスを繰り返す。先輩の唇の感触を塗り替えてしまうくらいの、熱く激しい裏切りのキスをしてしまった。


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