飼い犬に手を噛まれまして


「嫌いなら……副社長は副社長になれなかったと思いますよ。私はさっきの役員会の資料整理してますから、何かあったら呼んでくださいね」


 昼食会では、社長はワンコのことなんて一切見向きもしないで私たち二人の存在がそこにないように振る舞っていた。

 いい大人なのに、あからさまに嫌がらせみたいな事して社長には少しがっかり。自分は今まで一緒に頑張ってきた人だけに支えられてきたとかも言ってたよな……


 なんでそんなことするのかわからないけど、あれは酷いよ。ワンコが可哀想。



 へそを曲げた副社長を残して控え室に戻る。秘書課から支給品の、黒いノートパソコンの電源を入れた。

 そうだ、パソコン立ち上がる前にゴミくずの整理。あーあ、このゴミ箱は萌子先輩に言って新しいものに交換してもらわないと使えないな。


 中に混ざってたペットボトルは燃えないゴミだ! もう、一緒に捨てないでよ!


「あれ?」

 その次に手にしたのは、新聞だ。細長く捻られて捨てられていた


『シンガポール支社長就任。波根深陽(イーストエージェンシー)の華やかな経歴』という踊るような見出しがみえて、慌てて新聞広げた。


 あまり大きくないインタビュー記事。さっき、庶務課で萌子先輩たちが噂してた話は本当だ。

 ご結婚は? という質問に「今は仕事が楽しくて」と答えてる。

 ワンコは知ってる。深陽さんにはフィアンセがいないこと。仕事のためにシンガポールに行ったこと。




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