飼い犬に手を噛まれまして


「発表まだよね?」

「はい……そうだといいんですけど」


 都内某所の超高級ホテルのメイン広間で行われる、BNJフェスティバルの授賞式。広告業界からメディアまで、国内で一番大々的に開催されるフェスティバルだ。


「萌子先輩緊張してきちゃいました……先輩、大丈夫かなぁ?」

「大丈夫よ。あんたが信じなくて、誰が信じるのよ!」

「そうですけど……最近、先輩忙しくて、ずっとすれ違いの生活してたんです」



 シンガポールから帰国して、華麗にクビを通達された私だけど郡司先輩だけは笑いながら出迎えてくれた。

 ライバル社に副社長を引き渡した私に対して、嫌み一つ言わないで「おかえり」と抱きしめてくれた。
 やっぱり愛なのかなぁ、と先輩に溶かされつつ、安堵したのも束の間。先輩の怒涛の激務がはじまってしまったんだ。


 同じ会社にいられなくなった私たちは当然のようにすれ違い生活をしいられた。こればかりは、流石に後悔したけれど、でもしてしまった事は仕方ない。

「あら、これが終われば時間ができるわよ。よかったら、うちの子の同級生産みなさいよ、まだ間に合うわよ」

「いいね、いいね。紅巴、頑張って」

「な、な、な、何を言っちゃってるんですか! 萌子先輩、朋菜! 私、まだ結婚もしてないんですよ! スタートラインが違いますし!

 あ、でも朋菜の赤ちゃんが多分萌子先輩の子と同級生です」


「はあ、朋菜ちゃんもご懐妊なの?」


 朋菜は照れくさそうに笑う。


「はい! 今、つわりの真っ最中で今日は気分転換しにきました。でも、タカシさんはいつも以上に優しくなったし、悪魔だったお義母さんが妊娠したら天使みたいになって幸せいっぱいですけど」

「まあ、おめでとう! お互い頑張りましょうね。ことさら茅野も孕みなさいよ」


「は、孕むとか変な単語、胎教によくないですよ!」

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