飼い犬に手を噛まれまして

 寝ちゃった朋菜の両脇を引っ張ると、ワンコは朋菜をひょいっと抱き上げた。


「どこに運びますか?」

「え、ああ、じゃあ私のベッドまで」

「はい。紅巴さんは旦那さんに電話してあげたほうがいいですよ」

「うん……そうだけど、朋菜に変なことしないでよ?」

「あはは、リップサービスしただけですよ。俺は人のものには興味ないです」


 ひ、ひどっ。私のベッドに朋菜を運ぶワンコを観察しながら、タカシさんに電話した。すごい申し訳なさそうに「いつもすみません。俺も気が利かなくて……明日の朝迎えに行きます」と言ってくれた。

 朋菜はちゃんと大切に愛されてる。

 私は、朋菜のほうが羨ましくてたまらない。タカシさんみたいに優しい旦那さんがいて幸せ者だよ。彼みたいな味方が一人いてくれるだけで、幸せなことなんだと思う。


「茅野さん、朋菜さんにベッド貸しちゃって……どこで寝るつもりですか?」

 ワンコは、缶ビール片手に定位置に戻ってきた。

 そしてあぐらをかいて、余裕たっぷり笑いながら頬杖をついた。その顔が、色っぽくて不覚にもドキリとさせられる。

 ビールを飲み込む度に動く喉仏とか、ちょっと潤んだ瞳とか、艶やかな唇とか……


 そういえば、私……今朝、彼ともキスしちゃったんだ。それに、一日デートみたいなことまでしたんだ。
 いや、今はそんなこと考えないほうがいい。


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