飼い犬に手を噛まれまして
会社で別れた時は冷たかったから、何百キロも離れた先の電話口の声が優しくて……それだけで、すごく嬉しい。
『報告会の準備間に合いそうか?』
「はい、大丈夫です。萌子先輩が大変かも、って言ってましたけど、郡司先輩の名前出すと、どこの課の課長も快く協力してくれます」
『それは助かるな。それと悪いけど、こっちからの資料を会社の茅野のPCに送るから五十部ずつプリントアウトしといて欲しい』
「わかりました。明日、やっておきます」
『よろしくな』
「はい」
先輩が私を頼りにしてくれている。それがすごい嬉しい。
だけど、先輩と一緒にいるのは和香で私じゃない。仕事の話があったから電話してくれただけ。
「国際電話って高いんですよね。もう切りますね。先輩、頑張って」
『もう少しいいだろ? こっちは日本と違って会議の合間の休憩時間が長いんだよ』
先輩が笑った。