飼い犬に手を噛まれまして


 和香も先輩のことが好きなんだ。そのこと知っていて、知らないふりなんて出来ない。


「追いかけて、なんて言い訳するんだよ。俺がアイツなら、茅野の顔なんて見たくもないと思う」


 先輩、和香の気持ち知ってるんだ……


「それに、直に報告会がはじまる。アイツも社会人だ。それまでには、自分で気持ちに決着つけて戻ってくるはずだから」


「……わかりました」



 会議室の入り口からは、社員が数人入ってきた。

 もうすぐ報告会が始まる。


「プロジェクター歪んでるぞ」


「はい、今なおします」


 画面を調節しながら、私は幸せなのか悲しいのか複雑な気分だった。








 
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