女神は不機嫌に笑う~小川まり奮闘記①~


  ぱっとした暗算で200万くらいはなくなっていると思ってはいた。でもまさか・・・。本当に、あのバカ野郎は200万も私から盗ったのだ。

 しかも、あと1万円プラスして。

「・・・」

 ATMの列から離れて、私は胸を押さえながらヨロヨロと歩く。

 銀行の真ん中で絶叫しそうになった。

 しがない派遣生活で、節約に節約して溜めた200万である。

 口座の残高は13万8000円。

 30歳、独身一人暮らしの無職、現金13万8000円。

 月末に落ちる家賃で半分に減るほどの残高を見ていたら、目が回りだした。



 痛い社会勉強だったと思って、放っておこうと思っていた。

 私がバカだったのだと諦めようと思っていた。

 部屋の鍵だけかえて、新しく人生をやり直すつもりだった。

 すっぱりと忘れて。思い出す価値もないからと。銀行の後は、職探しをしようと思っていた。

 それが、30まで生き抜いてきた社会人の行動だと思っていた。



< 13 / 274 >

この作品をシェア

pagetop