女神は不機嫌に笑う~小川まり奮闘記①~
第5章 調査。

うまい話なんてない。

 

 中元の時期が本格的に始まった。

 7月の下旬、私はややこしいお客様の接客を終えて、大きくため息をついた。

「お疲れ様でした。えぐい方でしたねー」

 竹中さんが後ろから肩を揉んでくれる。

 はは・・・と力ない笑いを返す。今は冗談を言う元気も残ってなかった。

 ・・・ほんと、えぐかった。うちの店が冬に展開する商品が気に入ってるから出せと言い、季節物ですので現在は取り扱いがありません、と言うのを、客の言うことが聞けないの!?本社に一つくらいあるでしょう?!と売り場で声を荒げ、丁寧に頭を下げても引き下がらず、百貨店の社員を呼べという。

 だから呼んで、説明したら、サービスカウンターにお客様を連れていってくれた。あとは、こっちで何とかするからと。

 ・・・ああ、やれやれ。

 客だと何でも許されると思っている傍若無人な人がたくさんいることを、この業界に入って初めて知った。ほんと、無理難題を言う人はどこの世界にもいるものだ。だけどないものを出せ、とか、多い荷物は配達をして当然みたいなことを言われると当惑するのだ。

 困った人ってどこにでも居るんだろうけど・・・それにしても、『お客様は神様です』って言った人は誰だった?

 私はこっそりと首を回して肩こりをほぐす。ああ、10分マッサージに行きたい。


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