女神は不機嫌に笑う~小川まり奮闘記①~
電車一本で都会に出る。
揺られながら夕暮れも終わりかけの町並みを眺める。
自分のやろうとしていることが間違っているかどうかなんて関係ない、と心の中で何度も唱えていた。
世の中そんなに甘くないってことを、私は自分の手でアイツに知らしめてやるのだ。
法が及ぶほどのことをしたわけではないけれど、アイツは言葉で私を傷つけ、「名誉毀損」で訴えられるぐらいのことはしたのだ。
投げつけられた数々の暴言が頭の中を駆け巡った。
どうなるかな。私が売り場に行って、もし今日アイツがいれば。
その場で切れたり、泣き出さないようにしなくては。
面接にではなく、あの男に会うかと思うと緊張した。
深呼吸をゆっくりとした。
平日でも、百貨店の食料品売り場は人がたくさんいた。それでも混雑しているのは主に惣菜やマーケットのほうで、目的地である洋菓子売り場は客の姿もまばらにしか見えなかったけど。
まだ20代前半の頃、派遣でやったことのある受付嬢の笑顔を顔に貼り付けて、一角にあるチョコレート屋に歩いていく。
ちらりと周囲を見渡したけど、斎の姿は見えなかった。あの男ならどこにいてもすぐに判る自信がある。少し、肩の力を抜いた。