女神は不機嫌に笑う~小川まり奮闘記①~

人生最大の賭け。



 翌日の朝礼で、『ガリフ』の守口店長が、金銭が絡む事件を起こしたので百貨店から退店になった、とのお達しがあった。

 『ガリフ』には今日新しい店長が来ること、マスコミなどに何か聞かれても口を噤んでおくか、何もしりませんと話す事、が命令という形で伝えられた。

 以後、百貨店と彼は関係がないのだと。

 斎のファンだったパートのおば様達や女子職員からは悲鳴のような声があがり、詳細を聞きたいと騒いで朝礼は混乱に陥ったが、百貨店の店長の登場で静かになった。

「皆さんが心乱されるのは判りますが、皆さんは接客のプロです。この大変な時期だからこそ、お客様第一で、お仕事をされますよう、お願い申し上げます」

 という、大変丁寧なお願いかつ命令をした。

 要するに、黙って仕事をしろ、ということだ。

 私は、店長の話をそばで控えて聞く小林部長を見ていた。一度目があって視線が絡んだが、部長は無表情のまま周囲を見渡すことで目線を逃がした。

  あの人は私が斎の元カノだったのを知っている。それに、一昨日の事件の真相も桑谷さんに聞いて知っているんだろう。

 朝礼ノートを持って売り場に戻ると、早速隣のパートさんが近寄ってきた。

 私は笑顔のまま適当に話しを交わす。

 斎がちゃんと捕まるまでは安心は出来ないと思っていた。


 その日の午後、デパ地下では、守口さんと小林家の破談の話が駆け巡った。

 部長の娘さんが、今回の事件が起こる前に交際を止めていたと宣言したためだ。それを受けて、投資話に金を出した社員達が表立って詐欺罪で斎を訴えることにしたと聞いた。

< 240 / 274 >

この作品をシェア

pagetop