pianissimo.
「まあいっか、一食ぐらい」

私に、という訳でもなく独り言のように呟いて、「じゃあね」と人懐っこい笑みを見せる。可愛い……。ただ純粋にそう思った。


クルリと身を翻したライガの背中。突然に、引き留めたい衝動にかられた。



「ねぇ!」

呼び止めたというよりは叫んでいたと思う。咄嗟に出る声の音量調節はとんでもなく難しい。


立ち止まって振り返ったライガに駆け寄って、

「これあげる。気休めにはなるでしょ?」

言いながら、スカートのポケットに手を突っ込み、中にあった物を掴んで取り出した。そうして手を握ったままライガに向かって差し出す。


不思議そうに小首を傾げながらも、力を緩めた私の拳からこぼれる小さな物を、ライガは左掌で受け取った。


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