pianissimo.
「ええー、歩くのダリぃー。乗せて乗せて乗せて」

低い素の声で『乗せて』を連呼するライガは、どうやら甘えているつもりらしい。ちっとも可愛くない重低音に、不覚にもきゅんとしてしまう私は、まるで恋に恋する盲目の乙女だ。


――参った、いやこれ完敗。ほんと、自分で自分が嫌になる。



私が黄色いそれを着用している間に、ライガは自転車を引っ張り出して、発進体勢を整える。そうして再びスタンドを立てると、我が物顔で当然の様にその荷台の上に跨った。



「何してんの?」

咎めるように冷ややかに問えば、

「それだと頭濡れるよ? やっぱ傘いるでしょ?」

あたかもそれが正論であるかのように、真面目くさった顔で答える。


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