たいむ あうと。






ー…


6年前ー...




「亜子は強いんだね」
まだ9歳の私が、剣を構えて立っている。
その前には同じ歳の男の子。
私に笑顔を向けていた。

「別に」
私はツンとした顔で言う。
それでも男の子の笑顔は消えない。

「強いよ!俺、今まで負けたことなんてないのに」
男の子の名前は琥珀。
私の幼馴染で、いつも私を気にかけてくる暴れん坊。
唯一の取り柄が剣術だったけど、私には叶わない。
「亜子様!琥珀!ご飯ですよ」
「あ、今行く!!」
雑用のおばさんが二人に声をかけると、琥珀は勢い良く返事をして走っていった。
私も後からトボトボと付いて行った。

「今日も負けたのか?琥珀」
我らが慕うリーダー・光典が言う。
まわりには沢山の護衛が身を囲んでいる。
亜子が近付くと、気を使って居場所を空けた。
そこに琥珀と私は座り込む。

光典は、私の父親でもあった。
沢山の期待を持たれていたので、私は嫌だったけどー。

「負けました!!何でこんなに強いんですか!?」
「ハハハ」
9歳と言えども琥珀は光典に敬語を使っていた。
彼は誰よりも光典を信頼し、実の父親のように思っていた。
ー最も、ここにいる集団は皆そうだろう。
光典に救われなければ、今頃殺されていた筈。
父親が強い人で良かったと私は思う。

「俺の娘だからな。当たり前だ!!」
光典はそう言って亜子の頭をポンポン叩く。
それがとても嬉しくて、亜子は顔を赤らめた。
「光典様!!」
部屋に入ってきた雑用係の一人が光典に声をかける。
光典は「分かってる」とだけ言うと、部屋を出た。

「玲奈様…また具合悪いんだな」
「…仕方ないよ」
玲奈とは、亜子の母親のこと。
つまり、光典の妻。
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