たいむ あうと。
「ごめん」
龍は亜子を見て、申し訳なさそうに顔を下に向ける。
悲しそうな龍の表情を見ていると、亜子の心も寂しくなる。

ギュ…

亜子は龍を抱きしめた。
竜は一瞬驚いたが、すぐに亜子の背中に手をのせた。

「龍様のせいじゃありません…大丈夫です。そんな顔…しないで」

龍にはその言葉がとても儚く感じられた。
亜子の言葉に、ためていた不快な感情が浄化されていく。
瞳には自然につめたいものが伝っている。

龍は亜子の背中を支える手の力を強めた。
まるで、大切なものを守るようにー…。




厨房では美加が果物の皮をむいていた。
その正面にはニヤニヤした悠。

「りんごくらい自分で食べれるでしょ!!」
美加はそう文句を言いながら、何だかんだで作業中。

「俺ァ一応怪我人じゃからの~!!」
「馬鹿みたい」
美加が冷たく言うと、悠は少しいじけた顔をして美加を見る。

「ーバレバレだよ、強がってるの。悠は昔から悲しいときは、
必ず誰かと一緒にいたいって思うもんね」
その言葉を聞くと、悠は真意をつかれたと言わんばかりに驚いた。
ーまさか、自分の事をここまで理解してくれている人間がいると思わなかった。
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