たいむ あうと。

「龍様っ」
亜子が声をかけても、龍は振り返らない。
川の向こうを見つめたまま、動く気配が無い。

ー様子が変だ。
亜子が回りこんで、もう一度声をかける。

「…どこか悪いのですか?」
すると、今度は普通に振り向いた。

「いや、大丈夫!!俺はいいから他を早く見てやってくれ」
龍はニッコリと微笑んだ。
良かった、元気だ。
亜子は安心して、悠達の場所へ戻った。

夜になると、龍達は作戦部屋にこもった。
葵についての話し合いと、これからの大事な会議らしい。
亜子はあえて深いところまでは聞かなかった。
皆からー龍から言われるまで、待つことにしたのだ。



「朝か…」
龍は目が覚めると、寝てしまっていたのだと気付いた。
悠、楓、そして何人かの部下が寝ている。
起こさないように、龍はそっと部屋を出た。

扉を閉めると、龍は驚いた。
扉の前に亜子が寝ていたからだ。

「心配してくれてたのか…」
龍は中から布団を持ってきて、亜子にかけてあげた。
亜子は幸せそうな寝顔をしている。
龍は思わず微笑んだ。

「ん…?」
その笑い声に気付いたのか、亜子が起きた。
目をぱちぱちと開くと、龍を見つめる。
しばらくすると慌てて立ち上がった。

「ごめんなさい!!」
「別にいいよ。それより、昨日のことだけど…」
龍はいきなり真剣な趣きになった。

「戦っている途中に、葵がいきなり悠を刺したんだ。
それに反抗して内輪もめが始まっちゃってね…」
龍は失態だ、とばかりに顔を苦くした。
彼の声も怒り狂う皆には届かなかったという。
結果、多くの怪我人を出してしまった。
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