Do you love“me”?
「佐々木さん、これお願い出来ないかなー?」
待ち焦がれていたその日の夜、帰り支度をしている背後からかけられた声に、周りをそっと見廻した。
よし。
ユメちゃんは、もう帰ったな。
「ねぇ、佐々木さんってば」
少し苛立ったような声色でもう一度名前を呼ばれ、振り返る。
案の定、そこにはお化粧直しも完璧に終わって、もう帰る気満々の某スタッフ。
相変わらず、自分が終わらなかった分の残業を押し付けようとしているその態度は、お願い事をする態度では全くない。
いつもだったら“暇だし、お金も入るし”なんて思いながら引き受けてしまうところだけれど……。
今日は無理!
絶対に無理!!
「すみません、今日は無理です!! 失礼します!!」
「え? ちょっと……っ」
不満げに眉を寄せる彼女に頭をガバッと下げた私は、顔を上げるや否や、すごい勢いでロッカールームを飛び出し、ダッシュで廊下を駆け抜ける。
だって今日は、稜君が帰って来ているんだもん!!
とにかく早く帰りたい!
一秒でも早く、彼の顔が見たいんだ……。
電車で帰ろうか、タクシーを拾ってしまおうか。
そんな事を考えながら、裏通りに面した従業員出入り口から勢いよく飛び出して、次の瞬間、瞳に映った光景に、心臓が柔らかい音を立てた。
「美月ちゃん!」
「稜、君……?」
「うん! ただいまぁー!」
約束もしていなかったのに。
マンションに置いたままになっている、あのバイクに寄りかかって立っていたのは、紛れもなく稜君だった。
「お帰りなさいっ!!」
会社の目の前だという事も忘れ、思わずその胸に飛び込んだ私を、彼は広い胸に抱きとめて、長い腕でギューっと抱きしめた。
「逢いたかった」
「俺も! だから、迎えに来ちゃった!」
あぁ、本当に稜君が帰って来たんだ。
彼の声が心臓の鼓動と一緒に伝わって、自分の胸に広がる温かい気持ちに目をつぶる。