僕の女神、君の枷~幸せって何だろう?

帰り道、彼は言い訳のように、ポツリポツリとしゃべり出した。

「弘美さん、僕は東京に出て働き出してから、僅かですが毎月、母に仕送りしてたんです。
たった三万でしたけどね。
それでもね、大曲の農産物加工場で働く母の時給は六百円。三万は五十時間分の給料です。
僕はそのお金で、母に少しでも身体を休めて欲しかった。
たまには、好きな甘い物を食べたり、好きな映画を観たりして欲しかったんです。
母は映画を観るのが好きなんです。だから、少しでも、そういう贅沢に僕の稼いだお金を使って欲しかった。
でも、母は毎月、本当に必要な金額だけをその中から使うと、残りを僕の名義で預金していました。
そりゃ、月によっては、それが全額生活費にまわることもあったみたいですけどね。
母はそう身体が丈夫ではないんです。だから、体調が悪くて仕事を休む時もあって、その分の給料の穴埋めに、本当に仕方なく僕の仕送りを当てていたみたいなんです。
それでも、十年の間に百万近く貯まってました。
このお金はその一部なんです」

そう話す彼の目線は、どこか遠くを見つめていた。
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