僕の女神、君の枷~幸せって何だろう?

祖父の葬儀は口実で、この書類にサインをさせる為だけに、母をこの仙台に呼び出したのは明白だった。

僕は、堪えようのない胸糞悪さに、息が詰まりそうだった。

「ユキちゃんには、苦労かけたわね、そんな心配する必要ないのに」

その時、僕の隣りで、母の優しい声が聞こえた。

嗚呼、何処までこの人は、天使のように優しいのだろう。

彼女は黙って書類にサインをした。

母が何一つ申し立てることなく、素直に書類にサインしたことで、由紀子叔母さんの硬直した態度は一変した。

母と僕に、お茶と菓子を勧め、帰りの列車の時刻を調べてくれた。

そして、帰り際、彼女は少し躊躇いがちに僕に封筒を差し出した。

「これ、少ないけど、孝幸君の学費の足しにして」

僕は一瞬、その封筒を受け取るか受け取るまいか、悩んだ。

「ありがとう、ユキちゃん、助かるわ」

その封筒を、何の躊躇いもなく受け取ったのは母だった。

「じゃ、ユキちゃん、さよなら、もう会うこともないわね」

にっこりと微笑んで、由紀子叔母さんに別れの言葉を口にした彼女の顔を見て、それが母の精一杯の抵抗なのだと理解した。
< 97 / 298 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop