ルームシェア
となりの距離
「おはようございまーす。」
カラン、と鈴の音を鳴らせながらお店へと入る。
「あ、香織ちゃーん、おはよう!!今日は入ってくれてありがとう」
「いえいえ、ちょうど暇だったんで」
ニコッと笑いながら、あたしは厨房の奥へと入る。
今日はバイト。
大学の最寄り駅にある個人経営のカフェ。
店長のユリさんと旦那さんのケンさん、あとバイトのタクマ先輩が今日はいる。
あたしは、タメの女の子の代わりに今日入った。
「最近、お父さん平気なの?」
ドキッ。
ユリさんが痛い質問をしてくる。
ここの人たちはある程度の家庭事情までは知っている。
でも、さすがに今回のことは言えない。
年頃の娘が親父が失踪?したから、同い年の好きでもない男とルームシェアしてるなんて言えるわけない。
ユリさんとケンさんは、ちょうがつくほどの世話好き。
そんなこと言おうものなら、ここに住まわされそうで怖い。
「今はなんとかって感じですかね」
と、曖昧な返事をして、あたしはフロアを掃除し始める。
まだお客さんがいない暇な時間帯。
あたしはタクマ先輩とお喋りしたり、数人いるお客様にコーヒーのおかわりを淹れたり、サンドウィッチを作ったりする。
個人経営ということもあってすごく楽だ。
楽しいし、みんないい人たちし。
何より、雄大のことを考えなくてすむ。