カリソメオトメ
 カーテンの隙間から朝日が漏れている。その光の眩しさに、あたしは目を覚ました。身体の自由がきかず少し息苦しい。耳にゆっくりとした鼓動が伝わってくる。顔を上げると、あたしはアキラの逞しいの胸に抱かれていた。

 いつの間にか、あたしは寝てしまっていたらしい。アキラを抱き締めていたはずなのに、いつから反対になっていたんだろう。ちょっと思い出せない。

 信じられないくらい深く眠っていたように思う。こんなにゆっくり、深く眠ったのはいつぶりだろう。家に帰っても居場所がなくて部屋の隅で丸くなっていて、いつも眠りは浅かった。小さな物音でもすぐに起きてしまっていた。
 こんなに安心できる空間があったなんて、初めて知った。でもきっとそれは、アキラの胸に抱かれていたからだと思う。

 そういえば、何だか歌を聴いていたような気がする。少し掠れた、小さな歌声を覚えている。どんな歌だったのかまでは覚えていないのだけれど……。

 あたしはアキラの胸に頬を寄せて、上目遣いに彼を寝顔を見つめる。本当に、どうしようかって思うくらいに、可愛い寝顔。無邪気な子供みたい。

 あたしを守ると言ってくれたひと。あたしは彼を守りたいと思った。だから、眠った彼をずっと抱き締めていた。彼が悪夢にうなされた時、自分の無力さに胸が苦しくなってしまった。言葉を掛けてあげることしかできなかった。
 彼も眠ったあたしをずっと抱き締めていてくれた。きっと、考えていたことは同じなんだろう。

 あたしの鼓動よりも半拍ほどゆっくりとした、彼のそれが伝わってきて、その重ならない鼓動に少しだけ不安になる。あたしと彼はどうやっても別の人間なんだからそれは当然なんだけど、今は、今だけでも同じ鼓動でありたかった。

 でも決して重ならないのだとしても、そうありたいと願い、祈ることは間違いではないと思う。
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