彼女志願!
「あっ……」
慌てて彼の背中を追いかけた。
「――穂積さん」
靴を履いていた彼は、肩越しに振り返る。
セルフレームの眼鏡の奥の瞳は、相変わらず、星一つない夜空のような漆黒。
「おやすみなさい、凛先生」
優しく微笑んで、彼は静かに別れを告げる。
「――おやすみ、なさい……」
凛先生じゃない。
萌って呼んでもらいたい。
だけど言えなかった。
大好きだった微笑みの裏にも、なにか意味があるような気がして。