春の頃に思いだして。

(これは――)


妖魅の器――おそらく打ち捨てられた物が、主人を慕い、化け物の意志で動くようになったもの。


「ああ、毛だね。人の。つまりこの毛を持っているがゆえに、つまらない現世にただよっているんだ?」


獣は答えなかった。答える術を持たぬかのように、黙って瞼を閉じていた。


(それがつまり、答えというわけだ)


妖魅の勘は外れない。いま世界に散った妖魅たちを、すべからく滅するために、研ぎ澄まされた感覚を総動員させている。


「わかった。わたしは妖魅縛師。化け物を狩るのが商売さ。きっと損はさせないよ」


(死にたくなくてもころすけど、痛い目見るのは嫌だろう? さっさと這いつくばって、首を差し出しな――)

「どこの誰だか知らないが、これも何かの縁。このわたしが葬ってあげるよ……」

『イヤだ……』


さっきと違う声がした。大陸の狼は平然としている。


(そういえば、心なしか、いや、オクターブ高い声だった!)

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