手を伸ばせば、届く距離まで。



「橘さんは…もしかして真樹の同僚か何かですか?」


「真樹?」


扉の方を指差す。


医者は理解したように頷き、後頭部を掻きながら答えた。


「よくは知らないんですが…救急隊員には、会社の後輩と言っていたようです」



…後輩…


真樹のあんな涙は、初めて見た。


呆然と、崖っぷちに放り出されたような、絶望の涙。



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