そしていつかの記憶より
「木原って、何であんなに優しいんだろうね」

大学を出て、帰り道を歩いている途中。
陽子がぽそりとそう呟いた。

その表情は少し忌々しげだった。

「?・・優しいのはいいことだよ」
「そうなんだけど、優しすぎるのも考え物だと思わない?」

優しすぎる、かなぁ・・・?

「あ・・ごめん、何か熱くなっちゃったね。」

少し反省したような顔をして、陽子は俯いた。
そんな様子を見て、私はもしかして、と思った。


「陽子は・・・もしかして、木原くんのことが好きなの?」


そう陽子に問いかけると、
陽子は目を見開いて、効果音が付きそうなくらいすごい勢いで私に言う。

「そっ、そんなわけないじゃないっ!?」

でもその顔はほんのり赤い。

「あ、そうなんだ~!」
「ち、違うって・・・」

からかう私と比例して、陽子はだんだん元気がなくなる。
どうしたんだろう、と思って陽子の顔を覗き込む。


すると、陽子は真面目な顔をして、私に言う。

「本当に、そんなんじゃないから・・・。」
私はその声色に一瞬驚いて、目をぱちくりとさせた。


「えっ・・・う、うん。」

そこまで、否定することじゃないと思うんだけど・・・?

「あ、そういえばいつか。今何時か分かる?」
「え?」

唐突に時間を聞かれて、私はどうしてだろう、と首をかしげた。

「あ、さっきケータイいじってたら充電なくなっちゃってさ。時間確認するモノがないのよ」
「ああ、そうなんだ。ちょっと待ってて・・・・・、・・あれ・・?」

携帯を取り出そうと、ポケットに手をつっこむ。
・・・が、いつも入っているはずの”それ”は見当たらない。

「・・もしかしていつか、アンタ部室に置いてきたんじゃない?」
「え・・・っ・・そうかも!」

ああ、やってしまった。
ここから大学ってどれくらい時間かかるかな?

・・・まぁ今日は予定があるわけじゃないからいいんだけど・・・。


「陽子は先帰ってて。私はケータイ取りに行ってくるね」
「うん、分かった。気をつけなよ~」
「うん!またね、陽子」
「ばいばいー」

陽子と別れて、もう一度大学に向かった。
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