インスピレーション
第9章
結子が目を開けると病院のベッドの上に横たわっていた。ゆっくりと周りを見渡すと真衣が側に座っていた。

「結子。大丈夫?」
「真衣?」
 言葉を発すると胸と頭に痛みを感じた。
「ああーよかった」
「病院にいるのね?」
「そうよ。大変だったんだから。救急車で運ばれたのよ」
「そう」
「脳震とうだったみたい」
「そう。今、何時?」
「夜の8時5分ね」と真衣が腕時計を見ながら言った。
 浅井の診療に同行して牛舎で牛に蹴られて意識を失い、この病院に搬入されたようだ。

「浅井さんは?」
「え?」と真衣が怪訝な顔をしながら言った。
「浅井さんも来てくれたの?」
「・・・。浅井って、誰?」
「え?あの浅井さんよ」
「結子、大丈夫?」と真衣が心配そうな顔をした。
 
 真衣が知らない筈はない。
「私、牛に蹴られて意識が無くなって、ここに来たんでしょ?」
「そうよ」
「だから、浅井さんの診療に一緒に行って牛に蹴られたのよ」
「何言ってるの?」
「何って」
「意味がわからない」
「浅井さんのこと忘れたの?」
「もしかして、おかしくなったの?」
「からかわないで。怒るわよ」
 しばらく、押し問答になった。
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